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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)512号 判決 1959年7月23日

控訴人(附帯被控訴人) 財団法人モーター普及会 外一二名

被控訴人(附帯控訴人) 花島新太郎 外六名

主文

原判決主文第二項及び第五項を取消し、同第二項の部分に関する被控訴人(附帯控訴人)等の請求を棄却する。

本件控訴は前項の部分を除きこれを棄却する。

控訴人(附帯被控訴人)財団法人モーター普及会は東京法務局日本橋出張所昭和二十七年十月二十日登記に係る控訴人(附帯被控訴人)財団法人モーター普及会の解散及び控訴人板橋一雄、同毛利政弘、同中井宗夫、同大黒安雄の清算人選任登記、並に同法務局日本橋出張所同月十六日登記に係る被控訴人(附帯控訴人)小池十三、同米沢豊、同小泉武、同国廣武逸、同花島新太郎、同牧石康平、訴外外岡昊の理事選任登記の各抹消登記手続をせよ。

被控訴人(附帯控訴人)等のその余の抹消登記手続請求を棄却する。

訴訟費用(附帯控訴費用共)は第一、第二審を通じこれを五分しその一を被控訴人(附帯控訴人)等の負担とし、その余を控訴人(附帯被控訴人財団法人モーター普及会を含む)等の負担とする。

事実

控訴(附帯被控訴共)代理人は、「原判決中控訴人(附帯被控訴人共以下単に控訴人という)等勝訴の部分を除きその余の部分を取消す、被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)等の請求を棄却する、訴訟費用は第一、第二審共被控訴人等の負担とする」との判決、並に「本件附帯控訴を却下または棄却する」との判決を求め、被控訴代理人は、本件控訴を棄却する」との判決、並に附帯控訴として、主文第三項と同旨、及び控訴人(附帯被控訴人)財団法人モーター普及会は東京法務局日本橋出張所昭和二十七年十月六日登記に係る控訴人毛利政弘、同中井宗雄、同佐藤十郎、同佐々木猛二、同横井孝、同石持良吉、同阿部博、同佐々木喜代次、同中静市郎、同大黒安雄、訴外宮田憲介の理事選任登記の抹消登記手続をせよとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は双方訴訟代理人において次のとおり陳述した外原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。控訴代理人は、

(一)、(1) 訴外財団法人機械化国防協会(以下単に訴外協会という)は昭和二十年十月解散団体に指定されるという情報が伝つたので同協会監事であつた訴外又木周夫はモーターに関する知識技術の普及を目的とする別法人を設立してこれに右協会の財産を寄附させようと企て、同年十一月三十日右協会がその旨の決議をするのを見て自ら控訴人財団法人モーター普及会(以下単に控訴人普及会という)の設立代表者となり訴外協会から寄附を受くべき財産(この評価額金六十二万九千八十四円二十銭)を基礎とする財団法人(すなわち控訴人普及会)設立のための寄附行為を作成し、昭和二十一年一月八日発起人会にかけて右寄附行為及び会則の審議決定を得、同年二月四日文部大臣に対し右設立許可を申請し同月二十六日その設立許可を受けたものである。(2) しかるに昭和二十三年四月十六日法務庁民事局長から東京都知事に対し、(イ)、右普及会は解散団体である訴外協会の財産を承継した団体であり。同協会の有力な構成員が右普及会の会長に就任してこれを経営しているのであるからその財産は接収すべきものであること、(ロ)、解散団体の所属財産処分に関する新法令が公布されるまでの緊急措置として右普及会の財産の移動を禁止すると共に同会の責任者に保管させることを指示した。(ハ)、右指示に従い東京都知事から昭和二十三年五月四日右普及会の会長訴外又木周夫に対し財産の移動禁止を通達され、次いで右普及会の資産全部が接収されることとなつたものである。(ニ)、これにより右普及会はその基礎たる財産全部を喪失し、目的たる事実は実質上成功不能に帰したものであるが、なお同会は役員の交替を図り、新会長控訴人板橋一雄において昭和二十四年三月東京都から右接収財産の一部(什器備品価格金九千二百八十二円、車輪工具価額金四万八千四百円)の払下を受け事業の継続を図つたが昭和二十七年度において負債金六十七万円を繰越すの余儀なきに至り予算計画立たず遂に解散のやむなきに至つたものである。

(二)、(イ)、民法第三十九条によれば財団法人はその寄附行為を以て目的、名称、事務所、資産に関する規定、理事の任免に関する規定を定めることを要するものとされている。この寄附行為は財団法人の目的組織運営に関する根本法規であるが、元来財団法人は寄附行為に定められた目的事業を達するため設立者により提供された財産を基盤とする公益法人であつて社団法人と異り他律的のものであり、自治を有しないものである。従つて寄附行為の規定を解釈するに当つては設立者により表現された意思を客観的に合理的に深究してその意義を闡明すべきであつて文理に反する自由解釈は許されない。(ロ)、控訴人普及会の寄附行為による役員任免に関する規定(第十三条、第十六条、第十七条)中に「委嘱」とあるは委任し、嘱託する意味である。法人の役員は法人の機関であつて法人との間に委任または準委任の法律関係が存するのであるから法人の代表機関である会長が理事、評議員、監事を委任嘱託することを表現したものに外ならない。すなわち、右の理事、評議員監事の任命権は会長に存し、ただ会長が理事を委嘱するには評議員たる者の中から選ぶことを要するのである。また監事は法人の必須機関ではないが、これを選任するには民法第五十八条により寄附行為によるべきである。しかも監事は法人の財産の状況、理事の業務執行の状況を監査し、不整の廉あることを発見したときはこれを主務官庁に報告すべき職務を有し、理事と対立する関係にあるからその選任については前示寄附行為中に特に評議員の互選を以て選任された者であつて会長から委嘱された者という特別規定が設けられているのである。監事の職務の性質上設けられた右特別規定を理事の選任に準用、または類推適用することは、その職務の対立性が監事についてのみ考えられ、理事については考えられないという差異を弁えないものである。(ハ)、控訴人普及会においては、上記財産接収の善後処置を図るため全役員が会長又木周夫に辞表を提出し、同会長はこれを受諾して新に控訴人板橋一雄外五名を評議員に委嘱したが、これは右会長の専権を以てなされたものであり、役員任命権が右会長にあることを実証している。(ニ)、また、控訴人普及会は昭和二十三年八月五日評議会を開催し、その評議会において控訴人板橋一雄が同会の会長に推薦され、板橋会長は専権をもつて訴外上田健二外三名を同会の理事に委嘱しているが、監事は評議員互選の結果に基いてこれを委嘱しているのである。このような右会長の専権による委嘱は同会の寄附行為にもとずくものとして所轄官庁において容認されている。(ホ)、右普及会の寄附行為はその後も変更されたことはなく昭和二十七年九月十三日控訴人板橋一雄が控訴人毛利政弘外十一名を新に同会の評議員に委嘱したのは右寄附行為並に慣例に準拠したものである。(ヘ)、しかして財団法人における役員の選任はその組織に関する事項であつて業務執行ではないから当然理事会の議決事項となるものではなく、ただ会長において重要と認めた場合評議会を招集してこれを付議することができるに過ぎない。この場合でも評議会の議決だけで役員に選任されるのではなく、会長の委嘱によつて役員に選任されると解するのが右寄附行為における役員選任の規定の精神に合致する。

(三)、次に昭和二十七年十月十一日に開催された控訴人普及会の評議会において被控訴人片岡昭二郎を除くその余の被控訴人六名並に訴外外岡昊、同藤田晃雄が右普及会の理事、評議員たること、被控訴人片岡昭二郎が右普及会の評議員たることを解任したのは次の理由によるものである。

(イ)、控訴人普及会においては例年同会の運営上その関係者に対し全役員協議の上年末年始に当り粗品を儀礼的に贈呈していた。ところが昭和二十七年頃被控訴人等は右関係官公署である文部省、東京都庁、運輸省、警視庁等の関係係官に対し帝国興信所を使つて「板橋会長が会の予算を不正に費消しているから何を買つたか調査に来た」といやがらせをして右普及会の信用を毀損した。

(ロ)、被控訴人等は昭和二十七年四、五月頃右普及会の練習用地千六百坪の借主控訴人板橋一雄名義を同人に内密にして被控訴人国廣武逸名義に変更してくれと地主訴外藤間良策に依頼に行き拒絶せられた。

(ハ)、被控訴人等は右普及会の会長控訴人板橋一雄が昭和二十七年四月病気のため自宅療養を発表したところ、同人に図ることなく東京都墨田区内の自動車練習所長に対し右普及会を身売りしたいから買つてくれと依頼に行き、また右普及会を合資会社組織にして被控訴人等が経営者になることを計画し、右普及会の会計簿を二重に作製して同会の金銭を費消し、更に同会の収入金を被控訴人花島新太郎外二名の個人名義で預金する等全く同会の会長控訴人板橋一雄を無視して同会の財産の横領を図り公金の費消を敢行した。

(ニ)、被控訴人等は前示帝国興信所を使つて右普及会から東京都、文部省に提出中の書類に対して会計に不正があるからと称して調査をさせ、同会の会長控訴人板橋一雄及び同会の信用を毀損した。

(ホ)、被控訴人等は昭和二十七年五月擅に同会の会長理事控訴人板橋一雄の印鑑を偽造して辞任届を偽造し、更に控訴人普及会の事務所に保管中の会長印を盗用して同人の理事辞任登記を受けた(これについては刑事事件として告訴した)更に被控訴人等は右会長の承諾なくして同会の重要書類並に会計帳簿を持ち出し、隠匿して同会の運営に多大の支障を与えた。

以上の諸事実は被控訴人等が同会の理事、評議員として同会のため忠実に職務を遂行すべき義務に違反するものである。従つて控訴人板橋一雄が同会の会長として被控訴人等及びこれと共同謀議の関係にあつた訴外外岡昊、同藤田晃雄の九名を解任したのは正当の理由があるもので何等違法のものではなく有効である。しかして右解任は同会の評議会の決議の形式を以てなされたものであるが、これが議案として予め通知されていないのは右評議会の席上右解任について緊急動議が提出され満場一致を以てこれを議案とすることを可決され、ついで解任の決議がなされたためである。しかし役員の任免権すなわち役員の解任を含めて前示のとおり同会の会長の専権事項であるから同会長は右決議に拘束されることなく、同会長独自の意思を以て(右決議の趣旨を尊重して)上記九名を解任したものである。右解任の事実は即日右会長から解任された役員に通告せられたものであるから右解任は有効である。

(四)、原判決の事実摘示中、左の点を一部訂正補充する。

(1)、第四項の(三)、昭和二十七年十月十三日の理事会議及び評議会における控訴人(被告)普及会の解散並に清算人選任決議の効力に関する主張事実中、

「被告(控訴人)普及会の解散、並びに清算人の選任が理事会議及び評議会の決議の合致によつて決すべき事項であることは認める」(原判決第三十四枚目表第三行目以下)とあるは誤であるから次のように訂正する。

(イ)、被告(控訴人)普及会の解散は財団法人の目的たる事業の成功不能に該当するものである。法人の目的財産を以て目的事業を遂行することが客観的に不能になるに至つたときはこのときに法人は解散するものであつて、必ずしも理事会議及び評議会の決議の合致を必要とするものではない。

(ロ)、仮に、会長が成功不能と認めて解散すべきか否かを理事会議または評議会の議に付した場合においても、法人はその決議によつて解散すべきものではなく、成功不能の事実の発生によつて解散すべきであることは民法第六十八条第二号によつて明である。従つて右決議は単に成功不能の事実を確認する効力を有するに過ぎないものである。

(2)、更に、原判決事実摘示中、(二)、被告(控訴人)普及会の目的たる事業がなお成功不能ではないとする点(同項の(三)の(2) )は否認する。次の行「そもそも……以下十二行、右解散決議によつて被告普及会は解散せられたものである」(原判決第三十四枚目裏第四行目)の部分を削除し、次のように補充する。

(イ)、控訴人普及会は昭和二十五年連合軍総司令部の通達により監督官庁である文部省から調査を受け、控訴人普及会は財団法人の美名を利用して、(公益法人としての主たる目的である公益事業をしないで)事業の一部、附随的部分である自動車練習所の経営のみをしているが、かくては公益法人として望ましくないから速かに公共事業として自動車学校の設置をするよう注意を受けた。

(ロ)、そこで控訴人普及会においては昭和二十六年八月自動車学校の設置のため寄附行為の変更並に学校設置の計画を立て校舎その他の建築のため金百六十万円の借入金の許可を文部省に申請したが、基本財産より借入金が上廻り財団法人の基礎薄弱なものと認められ、右借入金の申請は認可に至らず、また学校設置についての認可権を有する東京都知事もこれが認可を与えなかつた、そこでやむなく右申請を取下げたものである。

(五)、被控訴人等から提起した本件附帯控訴は当事者の適格を欠くため原審で敗訴の判決の言渡を受けているものであるから附帯控訴人等、(被控訴人等)が第一審に別訴を提起しないで別件の控訴審において附帯控訴により申立を拡張し新な請求をすることは民事訴訟法上許されないものである。仮に許されるものとするも附帯控訴人等の請求は控訴人等が控訴の理由として述べるとおり理由のないものである。従つて右附帯控訴は却下または棄却せらるべきものである。

と述べ、

被控訴代理人は、

(一)、本訴における被控訴人等の請求は被控訴人等の本件附帯控訴における請求が認容されなければその究極の目的を達することができない関係にあるから右附帯控訴の請求は適法であつて許容されねばならぬ。しかも右請求は被控訴人等の本訴請求とその基礎を異にするものではなく、これがために訴訟手続の遅滞を来たすこともない。

(二)、控訴人普及会が訴外財団法人機械化国防協会の財産を譲受けこれに基いて設立せられ右訴外協会の監事の地位にあつた訴外又木周夫が右普及会の会長に就任しその運営に当つたことは争わないけれども、右普及会が昭和二十七年度において負債金六十七万円を繰越すに至り予算計画が立たなくなり解散のやむなきに至つたことは否認する。

(三)、控訴人普及会の寄附行為における役員任免に関する規定も財団法人である同会の目的に適合するように解釈すべきことは勿論であるが、その際運用の実際も斟酌せらるべきであり、また寄附行為自体も(右普及会寄附行為第二十六条の規定がある以上)これを変更することも可能である。

(四)、法人の理事と監事がある面において対立関係にあることは認めるが右普及会の寄附行為における選任規定がそのために特に設けられたものと解釈することはできない。

(五)、控訴人普及会の初代会長であつた訴外又木周夫においてその独断専行を以て役員の任命を行つたことはなく、他の機関に諮つて行つていたものである。

(六)、控訴人普及会の理事、評議員の任免については、任免の意思決定は、同会の理事会議、または評議会で行い、その意思の表示方法として会長がその役員または役員たらんとする者に伝達するのである。ただ意思決定が正当になされたとしてもその表示を欠けば効果を発しえないと云うに止り、意思決定を欠く表示が無効であることはいうまでもない。

(七)、控訴人普及会の寄附行為には理事会議、評議会招集の場所につき特に規定を設けていないけれども、その役員全部が同会の本部に常勤して仕事に携つておるのにそこから遠く離れた場所に集ることは不可能であつて従来の慣行も右本部または近接した場所で開かれていたものである。

(八)、控訴人普及会の理事会議、評議会が被控訴人等の主張するような瑕疵ある招集手続によつて開かれたのは、結局被控訴人等が右会議に欠席することを予期し、その間隙に乗じて一方的に被控訴人等の解任を図つたもので、このような決議は有効なものではない。なお、右会議の議題を予め通知することなくしてそれにつき議決した点は招集手続の瑕疵に外ならない。

と述べた。

以上が当審における当事者双方の事実上の補足である。

当事者双方の証拠の提出、援用及び認否は、

被控訴代理人において、新に当審証人佐久間市蔵の証言、当審における被控訴人米沢豊、同国廣武逸、控訴人黒木秋造各本人訊問の結果を援用し、乙第一号証は同一内容の告訴状が戸塚警察署長に提出されたことは争わないがその成立は不知、乙第三号証の一、二、同第四号証の一乃至三、同第五号証の一、二の各原本の存在並にその成立を認める、同第六号証の成立を認める、同第七、第八号証の成立は不知、但同第八号証は同一内容の証明書が文部省体育局から発行されたことは争わない、同第九号証の一乃至五の成立は不知、同第十号証の一乃至七の成立を認める、同第十一号証の成立は不知、但同号証の同一内容の告訴状が仙台地方検察庁に提出されたことは争わない、同第十二号証の一乃至五、同第十三号証の一乃至三、同第十四乃至第十六号証の成立は不知と述べ、控訴代理人において、新に、乙第六乃至第八号証、同第九号証の一乃至五、同第十号証の一乃至七、同第十一号証、同第十二号証の一乃至五、同第十三号証の一乃至三、同第十四号証乃至第十六号証を提出し、当審証人又木周夫、同北野昂一の各証言、当審における控訴人毛利政弘、同板橋一雄各本人訊問の結果を援用した、(但乙第一号証、同第三号証の一、二、同第四号証の一乃至三、同第五号証の一、二、同第八号証、同第十一号証はそれぞれ写又は控を以て提出し、乙第一号証は戸塚警察署長に提出した告訴状の控であり、乙第八号証は文部省体育局発行の証明書の写であり、乙第十一号証は仙台地方検察庁に提出した告訴状の控であると述べた、)

その外は原判決の事実に摘示されているところと同一であるからこれを引用する。

理由

控訴人普及会がモーターに関する智識技能及びこれが利用法を普及することを目的として民法第三十四条にもとずき昭和二十一年二月二十六日設定せられた公益財団法人であつて、機関として会長(理事)一名、理事、監事、評議員各若干名(外に理事長一名)を置き、理事は理事会議を、また評議員は評議会を組織し所定事項を審議するものであること、控訴人板橋一雄が昭和二十三年七月二十四日から控訴人普及会の会長兼理事長の地位にあつたこと、被控訴人小池十三、同米沢豊が昭和二十六年四月一日に、同小泉武、同国廣武逸、同牧石康平が昭和二十七年一月十日に、同花島新太郎が同年五月一日にそれぞれ右普及会の理事及び評議員に選任委嘱せられ、被控訴人片岡昭二郎が昭和二十六年二月二十六日に右普及会の評議員に選任委嘱せられたこと、及び控訴人板橋一雄が

(一)、昭和二十七年九月十三日に右普及会の会長の専権事項に属するものとして右普及会の理事会議及び評議会の決議にもとずくことなく、右会長の資格を以て控訴人毛利政弘、同中井宗夫、同佐藤十郎、同佐々木猛二、同横井孝、同石持良吉、同阿部博、同佐々木喜代次、同中静市郎、同大黒安雄、原審被告宮田憲介の十一名を右普及会の理事及び評議員に、同黒木秋造を右普及会の評議員に選任委嘱し、右理事選任につき同年十月六日東京法務局日本橋出張所においてその旨の登記を了し、次いで

(二)、同年十月十一日午後六時に東京都中央区日本橋室町三丁目一番地協和会館において右普及会の評議会を開催し、右(一)により新に評議員に選任せられた右十二名と右普及会の評議員である訴外藤田武及び会長控訴人板橋一雄、監事訴外曰下繁等十名が出席し被控訴人七名出席しないまま右評議会が成立したものとして議事に入り、緊急動議として上程された「東京地方裁判所昭和二十七年(ヨ)第四四三二号仮処分命令申請事件を提起した役員並にこれに協力した役員解任の件」を審議した結果、被控訴人片岡昭二郎が右普及会の評議員であること、右片岡昭二郎を除く被控訴人六名及び訴外外岡昊、同藤岡晃雄が右普及会の理事及び評議員であることをそれぞれ解任する旨の決議をした上右被控訴人六名及び訴外外岡昊の右理事解任につき同年十月十六日上記法務局出張所においてその旨の登記を了し、更に、

(三)、同十月十三日午後六時に右協和会館において、右普及会の理事会議を開催し、右(一)により新に理事に選任せられた控訴人中井宗夫、同佐藤十郎、同横井孝、同石持良吉、同佐々木喜代次、同中静市郎、同大黒安雄、原審被告宮田憲介の八名及び会長控訴人板橋一雄監事訴外曰下繁等十名が出席し、被控訴人片岡昭二郎を除く被控訴人六名が出席しないまま右普及会の理事会議が成立したものとして議事に入り、右普及会は財政及び事業状況に照して目的事業の成功が不能であるとして解散する旨、並に控訴人板橋一雄、同毛利政弘、同中井宗夫、同大黒安雄の四名を清算人に選任する旨の各決議をし引続いて同日午後七時三十分に同所において右普及会の評議会を開催し、右理事会議に出席した控訴人等九名(評議員にも選任されたことになつている)及び監事訴外曰下繁、評議員訴外藤田武、曩に控訴人板橋一雄によつて評議員に選任された控訴人黒木秋造等十二名が出席し、被控訴人等七名が出席しないまま右普及会の評議会が成立したものとして議事入り、右普及会の解散、並に控訴人板橋一雄外三名を清算人に選任する旨の決議をした上同月二十日上記法務局日本橋出張所においてその旨の登記を了したことは当事者間に争のないところである。

よつて上記(イ)、理事及び評議員選任行為、(ロ)、評議会における理事及び評議員解任決議、(ハ)、理事会議及び評議会における控訴人普及会の解散、並に清算人選任決議の効力について順次審究する。

(イ)、先ず、右普及会の会長控訴人板橋一雄が専決した前記理事、評議員選任の行為の効力について案ずるに、成立に争のない甲第十三号証によれば右普及会の寄附行為にはその第十三条に「理事は評議員中より会長これを委嘱す」、その第十七条に「評議員は会長これを委嘱す」と各規定されていることが明である。これらの規定を文字の上から解釈すれば理事、評議員の委嘱、従つてその前提たる選任行為は会長の専権行為と見られるのである。しかし上記甲第十三号証によれば、右普及会の寄附行為第二十三条には「理事会議は必要に応じ会長これを招集し予算決算及び事業執行に関する主要事項を審議す」、同第二十四条には「評議会は会長これを招集し、寄附行為に定むる事項の外会長において重要と認めたる事項を審議す」と規定されていることが明であるからこれ等の規定によれば右普及会の事業執行に関する主要事項については同会の会長は常に同会の理事会議の審議を経ることを要し、また右会長において重要と認めた場合には同会の評議会の審議を経べきものといわねばならぬ、問題は右普及会の重要機関である理事会議及び評議会の構成員である理事及び評議員に何人を充るかを詮考決定すること及びこれを解任することが右各規定にいわゆる「事業執行に関する主要事項」または「重要と認めたる事項」に当るものと解すべきか否かの点にある。ところで右普及会の監事の選任については前示甲第十三号証によれば同会の寄附行為第十六条前段に「監事は評議員の互選を以て選任し会長これを委嘱す」と規定されていることが認められ、監事の選任が会長の専権事項とされていないのではあるが、監事の職務(前記第十六条後段参照)の性質上理事評議員の場合と異つた選任方法が定められたものであるとする控訴人等の主張も肯けないわけではないから、右第十六条の規定から推して理事、評議員の選任は会長の専権に属さないものと解することはできない。なお原審並に当審証人又木周夫、原審証人上田健二、当審証人佐久間市蔵、当審における被控訴人米沢豊、当審における黒木秋造、同毛利政弘(但一部)、原審並に当審における控訴人板橋一雄(但一部)各本人の各供述及び成立につき争のない甲第六号証、同第十一、第十二号証を綜合すれば、

元来控訴人普及会は財団法人機械化国防協会からその財産の一部の寄附を受けて設立せられ、右普及会の寄附行為も右協定の寄附行為を参酌し急いで作成されたものであり、そのため相当不備の点が残されており、その修正の企もあつたこと、右普及会の初代会長には右協会の役員であつた又木周夫が就任したが、その就任後も右協会の役員選任の実際の取扱に準じ理事会の審議を経て選任しており、次いで右又木周夫の後任会長となつた控訴人板橋一雄も理事評議員選任の際には予め他の理事評議員の諒解を得た場合もあつたことが窺われる。しかしこのような方法は、寄附行為に反しない限度においては会務の円滑な運営を期する上から敢て排斥するには当らないのではあるが、かような実際の取扱から逆に寄附行為の規定を制限解釈することは適当ではない。結局理事評議員の選任が「事業執行に関する」事項に当るか否かによつて決する外はないのであるが、理事会議、評議会が何人を以て構成せられるかは会の運営に重大な影響を及ぼす事項であるにしても、会の事業の執行と会の役員の選任とは別異に考えられるのであり、監事の選任方法を右寄附行為の第六章役員の条下に規定して第七章会議の規定から省きながら理事評議員の選任については第六章に規定しないで第七章に規定したと解するのは均衡を失するものと思われるから理事、評議員の選任は右「事業の執行に関する主要事項」に含まれないものと解するのが相当である。

また前示第二十四条の「会長に於て重要な事項」と認るか否かは会長の自由裁量にゆだねられたものと解せられ、会長たる控訴人板橋一雄が前示役員の選任を専決したのは同人がこれを評議会に諮るべきものと認めなかつたことを示すものである。従つて右板橋一雄が会長として前示理事評議員の選任委嘱は前記寄附行為の規定に反する点が認められないからこれを有効としなければならぬ。(当審証人北野昂一の供述によれば控訴人普及会を監督する立場にある文部省としても右普及会の役員の任免は会長の専権事項として取扱つていることが認められる。)被控訴人等は右新な理事評議員の選任が通謀虚偽の意思表示であること、及び会長である控訴人板橋一雄等が解散を強行して私腹を肥さんがための手段であつて権限の濫用であることを各主張するけれども、これ等の事実を認め得る措信するに足る証拠はない。

(ロ)、次に、昭和二十七年十月十一日開催せられた右普及会の評議会における同会の理事、評議員解任決議の効力につき案ずるに、前示寄附行為は理事、評議員の解任について別段の規定を設けていないから控訴人等も主張するとおり民法の委任に関する規定に従つて事を決することになる。これを前提として被控訴人等の主張する無効原因について順次審究する。

(1)、被控訴人等は理事、評議員の解任について会長控訴人板橋一雄から何等の意思表示を受けていないと主張し、控訴人等は当時書面によりその旨の意思表示をしたと主張するけれども、当事者双方ともこの点について直接の証拠を提出していない。しかしながら(成立に争のない甲第十四号証、当裁判所が真正に成立したものと認める乙第十五号証の各記載によれば、会長である控訴人板橋一雄が右解任の意思決定をしたこと、右板橋一雄から東京都知事を経て監督官庁である文部省にその旨の届出をしたことが認められ、その旨の登記もすみ被控訴人等が既にこれを知つていることは被控訴人等の主張自体からも明白であるから右板橋一雄の右解任の決定は単に内部の決定たるに止らず外部公的機関に対して表明せられ、且被控訴人等も既にこれを了知している現在においては被解任者に対する意思表示を要件とする法の実質的目的は既に達せられているものと考えられる)少くとも被控訴人等が右のような情況の下に右解任を確知した後においては右主張は理由がない。

(2)、理事、評議員の選任委嘱が会長の専権事項であることは前判示のとおり(解任について寄附行為に特別の規定のないことも前判示のとおり)であるから解任についても会長の専権事項と解する外はない。従つて理事会議がなかつたこと、または評議会の決議に瑕疵があつたことを理由とする解任無効の主張は採用するに由ない。

(3)、よつて次に、権利濫用の主張について判断する。思うに財団法人の理事は勿論すべての役員は寄附行為者の意を体し寄附行為の諸規定を忠実に守り法人をもりたてその終局の目的を達成するよう努力すべき責任を有するのであつて、殊に会長は自己に与えられた専権事項の処理に当つてこのことを特に慎重に考慮すべきことはいうまでもない。ところで原審証人上田健二原審並に当審証人又木周夫、原審における被控訴人花島新太郎、原審並に当審における控訴人板橋一雄、当審における被控訴人米沢豊、同国広武逸、控訴人毛利政弘右本人の各供述(但後記措信しない部分を除く)と以上の証言または本人の供述中に顕はれた各書証の記載とを当事者間に争のない事実に加味して考えると、控訴人普及会を除くその余の控訴人等はかねてより控訴人普及会の目的たる事業の成功が不能の情況にあるものとする見地に立ち、被控訴人等(但被控訴人片岡昭二郎は途中から)は右に反対する立場をとり、互に画策を続けて来たのであつて、その間互に非とすべき点と多少の行き過ぎがあらわれたが、一方の不行跡と主張する事実は立場を異にする他方からすれば誤解とみられる節もあり、少くとも一方にのみ非違を責めることのできない情況にあつたことが認められ、右認定に反する各証拠は当裁判所の措信しないところである。もとより会長と反対の立場をとる理事、評議員が多いときは会長の意図するところを実現するのに困難を感ずることが少くないかもしれないが、それにしても論議は尽くさせ、多数の帰するところに従うのが会の民主的運営であり、会長の意に反する者を、それだけの理由で解任するというのは前記会長の職責に照し(役員任免が会長の専権事項であるにしても)その正しい権利行使の範囲を逸脱するものといわねばならぬ。そうだとすれば、被控訴人等を解任しなければならないような事情の認められない本件において右普及会の会長である控訴人板橋一雄が被控訴人等が理事、評議員たることを解任したのはその権限の濫用であつて無効であるといわねばならぬ。従つて被控訴人片岡昭二郎を除くその余の被控訴人六名、訴外外岡昊、同藤田晃雄、が同会の理事たること、及び右の者等及び被控訴人片岡昭二郎が同会の評議員たることについて解任の効力を生ずることはないものというべきである。

(ハ)、更に、昭和二十七年十月十三日開催せられた控訴人普及会の理事会議、及び評議会における解散並に清算人選任決議の効力につき案ずるに、右決議が右普及会の目的たる事業の成功不能となつたことを前提としてなされたことは当事者間に争がなく、ただその成功不能は理事会議が不能と判断したことを以て足るか、または客観的にみて不能である場合に限るべきかは議論の分れるところと思われるが、当裁判所は財団法人の性質上後者の見解が妥当であると考える。しかして本件各証拠は或は資金面からもはや成功を期し難いとし、或はまだ成功の望があるとして対立しており、これ等の全体にわたつて綜合的に判断するに、控訴人普及会の目的とする事業の成功不能が既に客観的に定まつたとの確信に達することができない。

従つて右解散決議は他の争点に関する判断をまつまでもなく無効なことが明白であり、解散決議が無効である以上清算人選任の決議もまた無効とする外はない。被控訴人等は右各決議が過去の事実であつて現在その無効確認を求める法律上の利益を欠くと主張する。(控訴人等は本訴が昭和二十八年四月十四日に提起せられているのに昭和三十一年四月十五日控訴審において初めて右の主張を新しく追加することに異議を述べておるが、この点について別に新な証拠調を要するものではなく、本訴を著しく遅延させるものとは認められないから右異議の申立はこれを採らない。)商法には例えば株主総会の決議無効の訴とその取消請求の訴とを区別して規定しているが民法上においてはかような区別を設けていないから両者を含めて法人の機関の決議無効確認の訴を許すものと解すべきであり、本件解散、清算人選任の各決議無効確認は株主総会決議取消に準ずるものと認められるから被控訴人等の右主張は理由がない。

以上説明したところによれば、昭和二十七年十月十三日開催された控訴人普及会の理事会議及び評議会における同会の解散並に清算人選任決議はいずれも無効であるから右普及会は引続き存続しその機関である理事評議員及び監事によつて運営せられるものであるところ、同会の会長控訴人板橋一雄の昭和二十七年九月十三日の理事及び評議員選任委嘱行為は適法有効であるが、同会の同年十月十一日の理事及び評議員解任決議はその効力なく、しかも同会の寄附行為第十九条に同会の理事及び評議員の任期がいずれも二年と定められていることは当事者に争がなく、前示甲第十三号証によれば右寄附行為第二十条に役員はその任期満了後も後任者が就任するまではその職務を行うことを要する旨規定されていることが認められるから他に同会の理事及び評議員につき選任または選任の事実が認められない本件においては控訴人等(但控訴人普及会を除く)(及び訴外宮田憲介)並びに被控訴人等が同会の理事若くは評議員の職務を行う者であるというべく、(もし前示決議取消の訴に準ずべきものでないにしても)これ等の法律関係(但新な理事評議員の選任委嘱を除く)が過去の事実の確認を求めるものでなく、現在の法律関係の確認を求めるものであると解すべきことは原判決の理由の説明のとおりであるからこれ等の法律関係につき控訴人等において争う以上被控訴人等はこれが確定の利益があるものというべく、従つて被控訴人等の本訴請求中右普及会の会長控訴人板橋一雄の前記理事及び評議員選任委嘱行為が無効であることを前提とする部分は失当として排斥を免れないけれどもその余の部分(但控訴のない部分は除く)はこれを正当として認容すべきである。進んで被控訴人等の附帯控訴の請求につき案ずるに、控訴人普及会について被控訴人等主張の理事及び評議員選任並に解任の登記、及び解散並に清算人選任登記が経由されたことは上述のとおりである。しかして右登記簿に記載られている事実が無効である以上右普及会がこれが抹消の手続をすることを要するから控訴人普及会に対して前記のような関係に在る被控訴人等は右普及会に対し右登記の抹消を請求し得るものというベく、上記の事実関係に徴すればこの請求(被控訴人等は控訴人板橋一雄に対する右抹消手続請求については控訴せず、控訴人普及会に対する請求に右抹消手続請求を追加拡張したものである)はその基礎に変更なく、しかもこれがため訴訟手続の遅延を来たすものとは考えられないから附帯控訴の方式による被控訴人等の右請求は適法である。而して被控訴人等の右請求中右理事及び評議員選任登記の抹消手続を求める部分は前記のとおり不当であつて許容し得ないけれども、その余の登記抹消の手続を求める部分は正当であつて認容すべきである。

よつて控訴人等の本件控訴は新な理事評議員の選任委嘱の部分については理由があるがその余については理由がなく、被控訴人等の本件附帯控訴による請求は上述の限度において理由があり、その余は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条、第三百八十六条、第八十九条、第九十三条、第九十五条、第九十六条を適用し主文のとおり判決をする。

(裁判官 梶村敏樹 岡崎隆 堀田繁勝)

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